تسجيل الدخولグレンの魔力が溜まるまであと2分をきったがカイルにしてみたらこの時間は非常に長く感じた。
腕の筋肉が痙攣しすぎて既に感覚が無くなっていた。 「あともう少しだけ持ち堪えろ、騎士団の団長。あと少しでこの悪夢を終わらせてやるよ。」 「たの…むっ!」 しかし、黒い根っこは時間が経つに連れて再生するスピードを上げてくる為どんどん追い込まれていくのだった。 だめだ…追いつかない! そう思った時、カイルの頭の中で声が聞こえた。 「あんたって、すぐ諦めるよね。なっさけないなー!」 その声は綺麗な声であるが口が悪く少し男勝りな感じがした。 そして頭の中でその声の主を連想させた。 …エミル! 「あんたまた親に逆らったのかよ?」 目の前にいるのは俺の昔からの腐れ縁で親友の女の子。エミル・ウォーマリン。 明るめの綺麗な水色の髪をした短髪の少女。服は露出が目立った半袖のTシャツにショートパンツを履いていた爽やかな感じだった。 「うるせーな。あんな親は親じゃねーよ。毎日仕事仕事で俺の事なんかどーでも良いと思ってる癖に家にいる時だけ親づらするとかありえないだろ。」 俺の家はちょっとした金持ちの家で父も母も共に魔法関係の職に就いていた。 それはエミルのも同じ悩みを持っていて2人はその裕福な家庭を持つものの悩みが一致したのもあり、仲良くなったのだ。 「それはあんただけじゃないだろ?それに今回はあんたが学校サボったから怒られたんじゃねーか。」 「そんな事、別に学校行かなくても俺は俺のままで生きていけばいいんだよ。」 「へー、あんたみたいな知識もない男がこの魔法社会で生きていけるとでも?」 「学力じゃねーよ!俺はいつか騎士団に入団して敵を倒しまくって戦績を上げてやるんだよ!」 「あははははっ!!あんたみたいな弱い男が騎士団に入れるわけないだろ?」 その時の俺は確かに弱かった。当時は剣は良くても神級魔法の引き出し方が分からなかったため魔法実技ではいつも最下位だった。 一方エミルは学力優秀、魔法実技じゃ彼女に敵うものは男子でも居なかった優等生だった。 そんな彼女を俺は羨ましかったんだろう。いつも挑発していた。 「うっせー!いつかお前も超えてやるよ!」 「あーそう。じゃあ今すぐ超えて見せなさい?」 「あー、やってやるよ!」 そう言っていつも剣の勝負をするがいつも負けてばかりだった。 「くそー!また負けたぁ!」 カイルは仰向けになりながら悔しがった。 「まだまだね。けど、カイルは剣の腕上げたじゃねーか。魔法はイマイチだったけど。」 「ふんっ!そーやって見下してろ!俺は諦めねーぞ!絶対に騎士団になって見返してやるよ!」 「見返すね。…じゃあ、賭けをしない?」 するとエミルは俺が寝転がってる横に腰掛けた。 「もし、あんたが騎士団に入らなかったら私はあんたを殴る。」 「なっ、殴る?」 「うん、けどその変わりもし騎士団に入ってあんたが業績を上げて団長になれたらさ…私も騎士団に入れて欲しいな。」 この時、エミルは頬を赤くしていた。 「言われなくてもお前は一緒に来てもらうつもりだぞ?」 「へっ!?ちょっとそれどういう…」 「そんなもん、成長した俺の姿をそばで見てもらう為に決まってんだろ。」 カイルの一言でエミルは一瞬目を大きく開けたが次の瞬間吹いて笑った。 「プッ!…あはははっ!やっぱりあんたは面白いわ。…いいわ、その時は嫌ってほど見てあげるから。期待してるぞ。」 「ああっ。」 2人がこの会話をしてる時は夕方で夕日が2人の姿を輝かせていた。 俺とエミルは家にいる時以外はずっと一緒だった。 親からの愛情をあまり受けたことがない俺にしたらエミルは俺の家族みたいなもんだった。 だけど、そんな日は長くは続かなかった。 「エミル。おまえ、最近エリオン家のせがれと仲良くしてるらしいな。」 突然エミルに問いかけるエミルのお父さん。青髪でメガネをかけ前髪がきっちりと整えられた40前半の男性だった。 「急に何?私が誰と仲良くしようと関係ないでしょ?」 父の問いかけに反抗的な態度を取るエミル。 「別にそんな事言ってる訳ではないだろ。ただ、友達はもう少し慎重に選んだ方が良いんじゃないのか?ましてや、あのエリオン家のせがれと……」 俺の親とエミルの親の仕事は商売敵の様な関係らしくあまり良好な関係ではなかったらしい。 エミルの親は俺の家名を口にしただけで嫌な顔をした。 「お父さんな、エミルには幸せになって欲しいんだよ。お前は将来ヴィアーランス家の長男と見合いさせ幸せな生活を送らせたい。」 「嫌よ!そんなの。どう考えてもこの家の利益を優先して私を利用しようとしてるだけでしょ!?それに私は愛のない結婚なんてごめんだから!」 エミルの父は呆れてため息をついた。 「じゃあ、エリオン家のせがれには愛があるっていうのか?」 「えっ!そ、そんなんじゃな…」 突然変な事を言われて戸惑うエミル。 「ほらみろ。お前のその様な半端な考えがいけんのだよ。…今からでも遅くはない。エリオン家のせがれとは縁を切れ。でなければお前をイフリーク以外の学校に転校させる。いいな?」 「い、嫌よ!なんでお父さんにそんな事決められなきゃいけないの!?そんなのおかしいよ!」 エミルはそう言うと走って自分の部屋に戻った。 「何にも知らないくせに…何にも…なん…に…も…」 次の日から、エミルはあまりカイルと話す事が少なくなった。 昼休みも他の女の子と一緒で学校が終わると1人で先に帰った。 俺はなんで急に話する事が減ったのか分からなかった。 もしかしたら俺が何かいけない事したのかもしれない。そう考えると話しかける事が怖くて俺もエミルに喋りかけなかった。 学校が終わってからは1人で剣の素振りや魔法の特訓を欠かさずやっていた。 エミルが喋りかけなくても目標は変わらない。ただ、エミルを超える為に。この時はそう思ってた。 「はぁ、はぁ、俺の影魔法はどうやら他の人のやつよりちょっと違うらしいな。こうやって対象の敵の影が自分の影と重なるまで範囲を広げて。」 するとカイルの影は目の前にある木の影と重なるくらいまで範囲を広げた。 「そして俺の影に入った対象の敵は触れなくても俺が剣を振る事で…木は真っ二つって事だな。」 カイルが剣を振ると目の前の木は横に切られ、そのまま倒れた。 「おぉっ!我ながらこの魔法は結構使えるぞ!よし!これを強化してエミルを…」 「私が…何?」 するとカイルの後ろにはエミルが立っていた。 「エミル…何だよ、急に。」 「いや、ちょっとあんたの様子見に来ただけ。凄いじゃない、その魔法。」 「ちぇ、見られてたかよ。まあこれが完成したのもお前っていう目標があったからなんだけどな。」 カイルが悔しそうにふてくされてるのをエミルは笑って。 「ぷっ、言ってくれるじゃんチビカイルのくせに。」 「なっ!何だと!お前今に見てろ!俺はお前の身長も超えてみせるからな!」 「えー、背の高いカイルなんて想像しただけで…笑っちゃうわ。」 そう言ってエミルは爆笑しながら走って逃げた。 「こ、このヤロー!待てエミル!」 カイルも怒りながらエミルの後を追いかけた。 「あはははっ!やっぱ背の低いカイルは足も短くて走るの遅~い!」 「うっせー!俺の影魔法でぶった切るぞ!」 「女の子に暴力振るうのか?カイルほんとサイテー。あはははっ!きゃっ!」 前を見ずに走っていたエミルは足元にあった木の根っこにつまずいてこけた。 「何やってんだよエミル。足見せてみろ。うわっ、血が出てんぞ。」 「へ、平気だよこんなの。唾でもつけたら治…って何してんだよ!変態!」 「何って、血を吸ってやってるんだよ口で。」 「そんな事自分でするからやめてよ!もう!」 「何怒ってんだよ…ったく。…ほら、乗れよ。」 「え?」 「おぶってやるから乗れよ。足怪我してんだから当然だろ?」 「でも、さすがにそれは…」 「いいから早く乗れって!」 仕方なくエミルはカイルの背中におぶらせてもらった。 その時エミルは心の中でこう思っていた。 何この背中?小さすぎて乗り心地悪すぎ。でも、何だか温かくて落ち着く。何でだろう…カイルといると安心する… 「んっ?なんか言ったか?」 「べっ、別に!!ほら、さっさと家まで連れてって!あんたのちっこい背中におぶってもらうのも結構疲れるのよ!」 そう言ってエミルは誤魔化した。 家に帰る途中、エミルが急にカイルに向かって。 「あのさ、カイル。最近私あんましあんたに話しかけなかったけどごめんね。」 「何だよ急に。てか、それって俺がなんかしたから怒って喋んなかったんじゃねーのか?」 「あんたがした事で怒った事なんか…あー、結構あるわ。けど、そんな事で話さなくなったりなんかしない。…私のお父さん知ってるでしょ?」 「あー、あの気難しい人?知ってる知ってる。…もしかして、その人に俺と喋るなって怒られたの?」 「そう、私らの親ってお互い嫌い合ってるから子供が仲良くしてるのが気に食わないみたい。それでお父さん、私とカイルが仲良くし続けるなら私を他の国の学校に転校させるって…ごめんね、あんたは何にも悪くないのに。」 エミルはカイルの背中にうずくまりながら涙を流した。 それに対してカイルはまっすぐ前を向きながら。 「それはお前が悪いわけじゃないだろ?じゃあ、そんな中で今日は何で俺の前に現れたんだ?」 「家にいても暇だし、やっぱりカイルと一緒の方が楽しいから。」 「そっか。だよな、親の都合で親友の仲を裂くのはやっぱり間違ってるよな。俺もお前がいない日は退屈で面白くない。転校なんてさせない。お前がいるこのイフリークが好きだから。」 「私も、カイルがいるイフリークが好き。この街から離れたくない。」 そう言ってエミルはカイルの背中を締め付ける力を強めた。 「カイル…私、ずっとあんたに言いたい事が…」 「出てきたらどうなんだ?いるのは分かってる!姿を現せ!」 「えっ?」 突然辺りを見渡しながら怒鳴るカイル。すると木の陰から複数の黒い服を着た集団がカイルの周りを囲んだ。 黒い服を着た集団は全員男で顔がバレないように仮面を被っていて、手には短刀を握っていた。 そしてその中のリーダー格らしき人物が前に出てきた。 「エリオン家のせがれとウォーマリン家の一人娘だな。まさか敵対してる家系同士の子供が一緒にいるとはな。」 「そこを通せ!」 「通すわけないだろう。こんな大物の子供が2人もいるんだ。誘拐してたんまり金を要求してやるよ。」 パチンッ! 「ヤレ!」 リーダー格の男が指を鳴らした瞬間、後ろにいた1人の男性がカイルの腹を蹴飛ばした。 「ぐっ!」 「カイル!うっ!何するの!」 その衝動でエミルはカイルから離れてしまい、そのまま男はエミルを身動きできないように腕を掴んで拘束した。 「エミル!てめえらエミルから離れろ!」 カイルは男たちを囲むくらいまで影を広げて剣を振った。 「グワッ!」 するとエミルを拘束している男の腕に切り傷が入り、思わず男はエミルを離した。 他の男たちも傷を負ったが致命傷までにはいかず、全員腕に切り傷が入る程度の軽傷だった。 「くそっ!まだ威力はないか…エミル!」 「カイル!」 男から離れたエミルはカイルの元へ走った。 「させるか!止まれ!」 「うっ!何コレ!…動かないっ!」 するとリーダー格の男が止まれと言うとどういう訳かエミルの動きが止まった。 「さっきこいつに腕を掴まれた時に仕掛けた拘束魔法だ。これで俺の命令には逆らえないぞ。」 「エミル!くそっ!」 カイルが再び影を広げて剣を振ろうとするとリーダー以外の男がカイルの腹を殴ったことで広げた影が無くなってしまった。 「がはっ!」 カイルはあまりの痛みに地面に倒れてしまった。 「ふん、所詮子供。俺たち大人に敵うわけないだろう。おいお前ら、この2人を連れて行け!」 リーダー格の男の言葉でカイルとエミルは男たちに連れて行かれた。 次に気がつくと俺とエミルは地下牢のような所に閉じ込められていた。 暗くて風の通りが悪く息苦しかった。 隣にいたエミルはすぐには起きなかったがしばらくするとしんどそうに目覚めた。 「こ、ここは?」 「気がついたか。俺にも分からんが俺ら2人を人質にして親に金を要求すると考えられる。」 「じゃあ…もし、親が拒否すれば?」 「その時は俺ら2人は死ぬだろう。」 カイルがそう言うとエミルは一瞬曇った表情をした。 「もう、ダメかもな俺ら。親にも愛されず、学校でも特別待遇の様に周りから変なプレッシャーを受け、最後はこんな誘拐犯に捕まって殺されて…もうこんなの嫌だ…もう死んだ方がマシだ!いっそ殺してくれ!」 カイルは死ぬかもしれない恐怖によって今まで我慢してきた不満を叫びまくった。 この時の俺は本当に死を覚悟した。死んだら楽になると考えてた。 パンッ! 頬に激しい痛みが走った。 この痛みはエミルが俺にビンタをしたからだった。 「あんたってすぐ諦めるよね?なっさけない!死ぬなんてダサい言葉で何でも片付けようとすんじゃねーよ!確かに今の暮らしは辛いことばかりだけど、まだ私たち子供だから、…きっと、大人になれば自由になれる…だから…死ぬなんて言葉で逃げるなよ…頼むから…」 「エミル…」 エミルはカイルの両肩を掴み、顔をカイルの胸へと近づけ涙を流した。 「…そうだな。大人になれば自由だよな。こんなとこさっさと出て、2人で自由を手にしよう!」 「カイル。…うん!」 エミルは腕で涙を拭い、ニッコリと笑顔を作った。 「しかし、この鉄柵をどうするか…剣はあるんだがこれじゃあ切れ…剣がある?…そうだ!」 するとカイルは影を広げて剣を振ると鉄柵がポキポキと切れて、ちょうど子供が通れる様な穴が開通した。 「あんたの剣って便利ねえ。」 「なんか液体や気体以外の物質なら何でも切れる事がお前がいない間に分かったんだよ。よし、行くぞ!」 2人は鉄柵の間をくぐって外に出ると、階段があったのでそれを登って上の階に行こうとした。 外に出ると案の定黒い男の集団が待ち構えていた。 「おい、お前らどうやって牢を…うがっ!」 カイルは走りながら影を広げて前にいる男たちを影で囲み、剣を振ると男たちの体に切り傷が出来た。 しかし、傷が浅いため再び体制を整えて襲ってきたがこれをエミルが出した水の砲弾を男たちの急所へ的確に当て次々に撃沈させた。 「やるじゃねえか、エミル!」 「オトコは弱点多くて楽勝ね。これなら楽に突破出来そう!」 そして、俺たちは最後の外への扉へ到着するが外にはリーダー格の男に加え、それよりも強そうな大柄な男が待ち構えていた。 「全く、仕事中に騒がしいねぇ。君たち、痛い目を見る前に早く牢に戻りなさい。」 「誰が戻るか!てめえら倒して俺らは自由を手に入れる!」 「自由ねぇ。君らの家にはお金があるんだからそれだけでも十分幸せじゃないか。一体何が不満なのかな?」 「お金があるのと幸せはイコールじゃない!そんな事しか頭にない親から決別する為に、私たちは知識と魔力をつけて自立する。これが子供の仕事よ!」 「なるほどな。でもね、世の中には君たちの言う仕事を味わえない悲しい人生を送る人だっているんだよ。俺みたいにね。」 リーダー格の男が仮面を外すと左目は殴られたのか潰れていて顔には爪で引っ掻かれたような傷が所々にあって髭の生えた中年の男だった。 「俺の様な金もない、親から暴力を受けながら育った奴にしたら君たちは羨ましいよ。人間はある一定の暴力を受ければ死ぬんだから…君たちにはその死を味わった事があるのかな?」 リーダー格の男は魔法で地面から棘のついた鉄の鎖を出し、エミルとカイルに向けて飛ばした。 カイルはその鎖を剣で弾き、自分の影を広げて鎖を切った。 しかし、鎖は一本だけではなく5、6本あったため全部は切れず、残った鎖がカイルを襲った。 「危ない!」 エミルが水で作った蛇で鎖を弾き、カイルを守った。 「サンキュー!エミル!」 そしてカイルはリーダー格の男と大柄な男を囲むまで、影を広げた。 「思いっきり切ってやるよ!」 そしてカイルは剣を思いっきり縦に振った。 「ぐああああああ!!!!」 「ぶっ!」 リーダー格の男の左腕は切断され、大柄な男は体一直線に切り傷が入り、そこから血が吹き出た。 「うげっ!人の血を見るのは初めてだから気持ち悪い…」 「何ビビってんだよ!こいつらは誘拐犯だからそんな事気にしなくていいのよ!」 エミルはそう言って両手に水色の魔力を溜め込んだ。 「ちょっと凄い魔法使うわよ!雨ノ神、その水の槍で大地の渇きを癒せー」 そう唱えるとエミルの手に溜め込んだ魔力から水の槍が次々とリーダー格の男と大柄な男を襲った。 その威力は凄まじく、周りに飛び散った水しぶきでさえ頑丈な壁にヒビを入れるくらいだった。 それをまともに食らった2人はタダでは済まないだろう。 「それは、水魔法の最上級魔法!しかも詠唱付きで…」 「成長してるのはあんただけじゃないのよ!私だって勉強してるんだよ!」 いや、あんたのその魔法は普通高校で学ぶやつだから…やっぱりこいつは化け物だわ…。 この時にこいつは恐ろしいと再び確信した俺だった。 「よし、じゃあ帰るか。やっとここから帰れるぜ!」 俺がそう言って帰ろうとして後ろを振り向くと大柄な男がいつの間にか血まみれになったエミルの頭を掴んで持ち上げていた。 「あっ…がっ、…」 「グフフフ、ヤッパリ女ハ血マミレガ似合ウナ。」 大柄な男は汚い笑い方で鼻息を立てた。 「おい!てめえ何やってんだこのヤロー!!」 影を広げて思いっきり剣を振った。 グシャっと肉が切れる音はしたがどういう訳か大柄な男の切り傷が綺麗さっぱり再生した。 「俺ニ剣ハ効カネー。俺ハ再生魔法ノ使イ手。ンデー。」 大柄な男が一瞬でカイルを殴り飛ばすとカイルは壁に衝突した。 「俺ハ接近戦ヲ得意トスル!フンーーー!!!」 大柄な男はそう言って鼻息を荒くした。 「カ…イ…ル…」 エミルは力細い声で言うとそのまま気を失った。 俺には…力が…ない。くそ、こんなんじゃ自由は手に入らない…こんなんじゃ…こんなん…じゃ…。 壁に衝突したカイルは身体中痛くて立ち上がれず、頭の中で嫌な事が思い出されていた。 「あんたって、すぐ諦めるよね?なっさけない!」 すると頭の中でエミルの声が聞こえた。 エミル… 「大人になればきっと自由になれる!だから…」 ……。 「私も、あんたがいるこのイフリークが好き…。」 そうだ。俺は諦めない…諦めるな!カイル・エリオン!何が自由が手に入らないだよ!そんなもん自分で掴み取るしかないだろ! そして大好きなイフリークで、エミルと一緒に騎士団に入って側にいてもらう。 これが俺達の自由だ! 「ぐっ……待ってろよエミル…俺が必ず…助け出すから…」 カイルは痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がった。 目を開けるとカイルの黒い瞳はどういう訳か赤色に変わっていた。 「ヌ?何ダ…ソノ目ハ。何ダ、ソノ刀ハ?」 カイルの刀はどういう訳か黒く変色しているが本人は気づいていなかった。 そして、カイルは影を広げていないにも関わらず剣を軽く振った。 するとエミルの頭を掴んでいた腕がスパンと切り落とされ、エミルは地面に落ちた。 「何ッ!?」 「よくもエミルを!許さねえ!」 するとカイルはいつの間にか大柄な男の目の前に立っていた。 「イツノ間ニ!?グワァァァァ!!!」 そしてカイルは大柄な男を再生が追いつかない速さで切りまくった。 ズタズタに切られた身体は再生するのを止めてしまい、大柄な男の意識は盲ろうとしていた。 「アッ…アガァ……」 「はぁ、はぁ、お前を…喰ってやる!」 「ヤ、ヤメ…ヤメロぉぉぉぉぉお!!!!!!」 カイルはそう言うと口角を吊り上げ、そしてカイルの剣から出てきた影が大柄な男を飲み込んだ。 その後、俺は気を失ったが気がつくと俺は自分の家のベッドで寝ていた。 あの後俺とエミルは警察に助け出されたらしく、俺たちを誘拐した犯人達はそのまま全員連行された。 家に帰ると親に初めてビンタされたが、その後は強く握りしめながら泣いていた。 初めて俺はこの時、親からの愛情というものを知った。 エミルも怒られたのかな?そして俺と同じこと思ってるのかな?そんな事は分からないけど心配だ。 しかし、一番強そうな大柄な男が見当たらなかったのが謎だな。俺は壁に衝突してからの記憶がないし。 …まあいいや、エミルと俺は無事だったし明日から学校でまた話とかしよう。 痛ててて、壁にぶつかったせいで身体中めちゃくちゃ痛い! そして俺はそのまま疲れたから寝た。あと、早く明日になってエミルに会いたいな。 次の日、俺は学校に着いてからエミルの席を見たがまだ来てなかった。 いつもなら俺よりも早く到着するのに珍しいなとこの時は思っていた。 チャイムが鳴り、先生が入ってきたのにエミルはまだ学校に来ていなかった。 「はい、みなさんおはよう。今日なんだが、先に悲しい知らせがある。」 「うちのクラスにいたエミルなんだが、彼女は親の仕事の都合上南の国シルフの学校に転校されたそうです。」 その先生の言葉に、俺は一瞬思考が追いつかなかった。 「エ、エミルが…転校…。」 嘘だ…嘘だ嘘だ…俺は信じない!信じたくない!あいつがこの国から居なくなるなんて知りたくない! 嫌だ!なんで…なんで俺の前からいなくなるんだよ!俺が何をしたって言うんだ! そして気付いた。エミルは言っていた。 「俺と関わったら他国の学校に転校…」 「どうしたんだ、カイル?」 「俺のせいだ…俺のせいなんだよぉぉぉ!!」 そして俺はそのまま教室を出てしまった。 俺は教室を出てからいつも修行している場所に座っていた。 「あー、早くも俺と一緒に騎士団に入るって夢が無くなったな…くそ!俺はこれから、何を目標にしたら良いんだよ…」 カイルは空の雲をなだめながらブツブツと言っていると後ろから女性らしき人が近づいてきた。 「エ、エリオン君!」 その人はエミルと仲の良かったハンジという茶髪でぱっちりした目が特徴の女の子だった。 「ハンジ…何の用だ?」 「ごめんね、エリオン君。私、知ってたの…エミルがこの国から出て行くこと。」 「何だと…何で言わなかったんだよ!」 俺はその時気持ちがだいぶ荒れていたので思わずハンジに怒鳴ってしまった。 「ご、ごめんなさい!でも、言うなって言われたの。エミルに。」 「そ、そうなのか…すまん。」 「ううん、私も罪悪感はあったの。…それで、これ。」 するとハンジはポケットから一枚の手紙のような物をカイルに渡した。 「これは?」 「エミルがエリオン君に書いたメッセージよ。読んで。」 カイルはそう言われて手紙を広げた。 カイルへ お前とはいつも一緒だったな。そりゃ小さい頃から同じ境遇で育ってきたんだから気も合うし仕方ないよな(笑)でも急にごめん。私の親とカイルの親は昔から犬猿の仲だからあんたとあんまり喋るなって親に言われた。本当は私辛かったけどカイルと離れるのはもっと辛いと思った。けど、結局は転校する事が決まってたらしくてね、だから転校する前日にカイルに会いに来た。やっぱあんたは凄い。私なんかすぐ追い抜かれそうだ。けど、私を追い抜いたからって良い気になるなよ。これからはあんたは騎士団に入って私を守るって言った事の様に私の大好きなイフリークをこれからも守って。今更って感じもするけど、私はあんたの事が…好きだ! エミルより その手紙には所々に水滴が落ちた跡があった。 そして、これを読み終わった俺はハンジがいるにも関わらず号泣した。 そして、決意した。 俺はこのイフリークを死んでも守る!あいつが愛したこのイフリークを…必ず守ってみせると。「いつもありがとうね、リーナさん。」「いえいえ、私にはこれくらいの事しか出来ませんので。」カイルの家ではカイルの母親とミーナの母親であるリーナが、皆んなの食事を作って準備していた。クレーアタウンを悪魔に襲撃され、住む家が無くなったリーナは娘のミーナと一緒に居候させてもらっていた。(第34話参照)家族以外の人が増えるという事は家事をする者の負担が増えるという事だが、主婦としての家事スキルが高いリーナのお陰でカイルの母親は物凄く助かっていた。「リーナさんが居てくれるお陰で家事がだいぶ楽になったわ。」「それに、あなたが作る料理はどれも絶品で凄く美味しいからね。今日も頼りにしてるわよ!」「ありがとうございます、カルラさん。」カルラとはカイルの母親の名前である。2人はお互い歳が近い為、普段カイル達が居ない間に家事を早く済ませ、暇になってから色んな話に花を咲かせていた。確かにリーナの料理は作るもの全て絶品であったが、彼女は料理の腕をずっと磨き続けていた。その理由は、いつかアガレフが帰ってきた時に沢山料理を食べてもらう為であった。自分の料理が好きだと言ってくれた夫に、沢山自分の料理を食べてもらう為に。しかし、その願いは叶わなかったが今はその料理の腕が誰かの為に活かされており、それがリーナにとっても嬉しい事だった。そしてカイル達がノーム王のところから帰ってきた。「ただいま帰りました、母上!」カイルが帰ってきた為、玄関から自分が帰ってきたと伝える声が母達の居る部屋まで伝わってきた。廊下からバタバタと多くの足音が聞こえてくる。他にも一緒に暮らしているミーナとエミル、フィナ、ライク、ニケルも一緒に帰ってきたからだ。そして帰った6人は母たちの居る部屋にゾロゾロと入ってきた。「皆んなおかえりー!ご飯もう少しで出来るからね。」「ありがとうございます、カルラさん。私も手伝います。」「私もやります!」フィナが言うとエミルも便乗し、カルラ達の手伝いをしようとした。「ありがとうね。助かるわ、フィナさんにエミルちゃん。2人にはちょっとこのスープの味を見て良い感じに整えて欲しいの。」カルラは殆ど作っていたスープの最終調整をを2人に任せた。フィナとエミルは2人とも料理が得意である為、時間がある時などはカルラとリーナに手伝いを頼まれる事があった。しかし、
………ここは、どこだろう?気付いたらそこは真っ暗な空間にミーナはいた。「ここは…旅に出る前に見た夢の中みたい。夢の中のはずなのに夢じゃないみたいな…」そう。ここは初めてミーナが夢の中で優しい心を持つグレンと出会った場所であった。「ミーナ。」この声は?そう思ったミーナは声のする方を向いた。そこにはあの夢の中で初めて出会った黒髪のグレンが居た。「あなたは、あの時夢の中で会ったグレン?」そう質問すると、何故か黒髪のグレンは涙を流しながら言った。「…お願い…助けて欲しい。」そう言ってグレンは闇の中へと消えていく。「え、ちょっと待って!どこ行くの!…ねぇ!」ミーナは呼び止めたがグレンは何も言わずに消えていく。夢の中で走っていると何かにぶつかる様な衝撃が伝わった。「痛っ!」目の前で誰かにぶつかってしまったのか、ぶつけられた人は痛みを口にした。「…ハッ!…夢か……。」「…もぉ。夢か…じゃないわよ。何時だと思ってるの?」ミーナとぶつかったのは隣で寝ていたエミルであった。時刻は既に午前2時を過ぎており、起こされたエミルは滅茶苦茶不機嫌そうにミーナを睨みつけていた。「ご、ごめんねエミル。変な夢見てしまって…。」「もぉ……」そう言ってエミルは再び布団を被って眠りについた。「(今の夢、何だったんだろ?あの黒髪のグレンが現れたって事は、現実のグレンに何かあったんだろうか?)」「…ちょっと駄目だ…もう、眠い…。」少し考えたミーナであったが眠気には勝てなかった為、彼女もすぐに布団を被って眠りについた。ミーナ達はクレーアタウンでアスモディウスと戦ってから10日程の日が過ぎ去っていた。カイルはクレーアタウンで起きた悪魔との戦いで、カレンが悪魔サイドに居たことを西の大国イフリークの騎士団達に無線で伝えた。騎士団達の反応はそれぞれ違っていたが、全員悲しみに暮れていた。特にエバルフ。彼はカレンととても仲が良かった為、敵となったカレンを聞いて現実を受け止めきれずにいた。イフリークに残った12騎士長は5人4騎士長、ウェンディー・ソルディア5騎士長、シキ・ラインハルト6騎士長、エレンシー・ガーデン7騎士長、アレックス・マーベルそして12騎士長、エバルフ・シュロンこの5人はカイルから聞いたレミールに残った騎士長達の訃報を聞き、後日直接レミー
2人が見た通り、確かにヒスイはグロードを助けた。それは紛れもなくその場で起きた事実である。しかし、2人の記憶による事実と今こうして実際に起きたヒスイが刺された結果が矛盾している。何があったのか?それはベリエルの持つ虚無の魔眼の力が原因である。[あらゆる事象に対する再試行]これはその時に起こった場面を無かった事にし、再度その場面をやり直す事が出来る力。例えるなら、(殴られた→やり直し→殴られる前に戻る。)といった様に、実際起きた事を無かった事にし、起きる前に戻る事が出来る。言うなれば、時を巻き戻す力に近い力である。この力は虚無の魔眼を見せた相手にのみ発揮する。先程2人に虚無の魔眼を見せたのはこれを行う為であった。南の大国シルフで、カイルがハイド(ベリエル)に優勢だったがそれを一気に覆されたのも、この力が原因である。(第18話参照)そしてグロードが気がついた時にはヒスイは既にベリエルの黒い槍に突き刺されており、引き抜かれたと同時に後方へと倒れていく。「ヒスイ!!!!」ヒスイが倒れていく姿を見て叫ぶグロード。何故こうなったのか、考える余裕さえ無い。目の前で妻が刺された事に対する怒りがグロードの心を真っ赤に染め上げる。そしてグロードは空間移動でベリエルの元まで転移し、ベリエルの胸ぐらを掴む。「ぐっ!…」この時、何故かベリエルは虚無の魔眼を見せてこなかったが、この時はそんな事が気にならないくらい怒りの感情のみがグロードを突き動かしていた。怒りが爆発したグロードは胸ぐらを掴んで動けなくなったベリエルの顔面を拳で連打した。「うおおおおおお!!!!」ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!……!何度殴っただろうか。何故か無抵抗のベリエルをグロードは怒りのままに殴り続けた。そして、右拳に魔力を込める。全属性を操れるグロードは、右拳に全属性の力を纏った。全属性とは、基本属性である8属性(火、水、風、雷、土、空間、光、闇)。これらを全て併用すると、相反する属性同士が互いを弾き合う。普通に使えば術者に影響が及ぶ危険な行為。しかしグロードは呪いにより死なない不死身の身体である為、その様なリスクが無い。無尽蔵に溢れ出る魔力を、右拳に纏った全属性の魔力へ更に加算する。魔力が増えれば弾き合う力も更に強化される。グロードはその強大すぎる力を全て、ベリ
ラウスが産まれてから5歳になった頃。未だグロードはベリエルを見つけられずにいた。その日は休日出勤で働きに出ていたヒスイの代わりに、グロードがラウスの世話をしていたのだった。「お父さん!」グロードの所まで走って近づくラウス。ラウスは髪色は母親譲りの綺麗な白銀であったが、顔はどちらかというと子供の頃のグロードに似て優しそうであった。「どうしたんだ、ラウス?」「この魔法書に書かれてるやつが分からないんだけど、教えて欲しい。」ラウスはどうやら魔法書を見ながら勉強しており、グロードは分からないところを教える為に一緒に見た。ーーこうしてると、ベリエルに勉強を教えてた頃を思い出す。一瞬ベリエルを思い出したが、すぐにその思い出を振り払った。「(いかん!ラウスはあいつとは違う!あいつはもう弟じゃ無い。憎むべき男なんだ。)」グロードは邪念を払う様にして、そう自分に言い聞かせた。「どうしたの?」「あっ…えっと、何でも無い!…ここが分からないんだな?」グロードはラウスが聞いてきた分からない部分を見て驚いた。「(…これは…高等魔法の専門書じゃ無いか。とても5歳が理解出来るレベルじゃ無いぞ。)」ラウスは魔法の理解力が異常に高く、それは紛れもなく10歳で実用性のある魔法を発明していったグロードの血筋であった。「ここはな、こうだから……。」噛み砕いて教えたつもりだがどうしても難しい専門用語を使う為、高校生でも理解が困難なレベルであった。しかし、ラウスは。「ありがとう!それだけ分からなかっただけだから!」 そう言ってラウスは専門書を持って部屋に戻って行った。ーーあの難解な本の一部分が分からなかっただけ?「…凄いな。流石は、俺の息子だな。」5歳にしては凄まじい魔法の才能を発揮するラウスに驚いていたが、自分の息子がこれ程の才能を持っている事に対して誇らしくなった。それから7歳になって少し身体が大きくなったラウスは体術の面でも凄まじい才能を発揮していた。「やああ!!」ラウスは殴る時に上記の様な子供っぽい掛け声を出すものの、それまでの動きが凄かった。グロードは手加減してるものの、まるで次に動き出す足の動きが見えているかの様にラウスは予測していた。その様子をヒスイはちゃんと見ていた。その夜、ラウスが寝静まった時にヒスイから話があった。「あの子、
月の遺跡から現れた古の化け物達が世界中を暴れ回った事により、多数の他国の人が亡くなったこの事件は世界中で瞬く間に広がった。現去流時(げざると)で生き返るのは、同じ種族の人間のみ。つまり、月の民が生き返った事により他国の人間は殺されて亡くなったままであった。これにより、今回の首謀者は今まで古の化け物達を野放しにし続けてきた月の民の責任だと言われ、これが更に月の民達への差別が助長される要因となった。この差別は風化される事が無く、時間と共に他国からの恨みばかりが募っていった。一方、古の化け物達を倒し世界の人々を救ったと持ち上げられたグロード。彼は世界の英雄として一躍有名人となった。沢山の人に賞賛され、感謝される日々。中にはグロードが古の化け物達を倒した事を記す為、絵物語を書きたいと懇願してきた絵師も居た。ーーもう、好きにしてくれ。投げやりに全てを受け入れるグロードは、ほとぼりが覚めるまで、人々の"英雄ごっこ"に付き合った。そして50年が経った頃には彼の事を知る者が死に去っていき、その頃にはもうグロードの事を英雄と呼ぶ者は居なくなっていた。50年も経てば時代の流れもそうだが、人々の価値観や文化も大きく変わっていく。しかし、変わらないものもあった。1つは月の民の差別。これはいつまで経っても、古の化け物達が世界中を暴れ回り、その生まれ変わりが現在の月の民だと後世に語り継がれていた。その為、実際古の化け物達が暴れた所を見た事がない後世の人々も、月の民が恐ろしい存在であるという価値観だけ植え付けられていた。そしてもう1つ変わらない事がある。これは50年経つ前から感じていた事だ。歳を取っていない。グロードは40歳の姿から変化が見られ無かったのだ。何故変化が無いのか?それはベリエルが掛けた呪いのせいであった。ベリエルはリオ王国の人達を超月食の日に自身の生命エネルギーに変換させ、それによってベリエルは不老不死となった。そんなベリエルに掛けられた呪いにはある条件があった。「この呪いは、術者が死ぬまで継続されるものである。」つまり、これはベリエルが死ぬまで呪いが解けないという事だ。不老不死になったベリエルは死なない為、呪いを掛けられたグロードとアガレフも必然的に不老不死となってしまった。これが、2人が400年間死ぬ事なく生き続けてきた理
それからもグロード、アガレフ、ベリエルは共にリオ王国で平和な日々を過ごしていった。グロードはあれから魔法の鍛錬を積んでいったが、時々月の遺跡へ出向いてアマルとサマスに修行を付けてもらう事が増えた。アガレフもグロードと一緒に月の遺跡へ出向き、修行を付けてもらっていたが彼には既に沢山の弟子が居た為、都合が合わない日が多かった。そしてベリエル。彼はこの頃になると部屋に閉じ篭もる事が増えた。理由は分からないが、何を聞いても調べ物をしてるだけだと言い、詳しい事はグロードとアガレフに教えようとしなかった。一度気になったグロードとアガレフはベリエルの部屋に行ってみた。扉の前でアガレフがグロードに言った。「ベリエルの奴、朝から部屋でずっと何かしてるみたいなんだが…どうも様子が変なんだ。」「ああ。確かに変だ。ベリエルがこの部屋に閉じ篭もってる間、一切の魔力を感じないからだ。」異変に気付いたのはグロードも同じであった。魔力を感じない。というよりも、まるでそこにベリエルが存在していない様に感じられた。気になったグロードはベリエルの部屋の扉をコンコンとノックした。数秒待っても反応は無く、静かなままであった。「…やはり様子が変だ。扉を開けるか?」「待て、アガレフ。流石に勝手に入るのは…。」すると目の前の扉がギィィッとゆっくり開く音が聞こえてくる。中からは相変わらずクマが酷いもののいつもの変わりない表情と姿、そして魔力のベリエルが出てきた。「…どうしたの、兄さん達?」何故か扉の前にグロードとアガレフが居た為、キョトンとした表情で2人を見ていたベリエル。「…いや、…何でもない。ずっと部屋に閉じ籠ってるから心配になってな。」「そ、そうだ。偶には、外に出て身体を動かしたらどうだ?」さっきまで魔力が感じられなかったベリエルはまるでそこに居ない様な気配であったが、突然その場に現れた様な気配に2人は驚く。しかし、一先ずベリエルに変わりがない事を確認して2人は安心した。「……んー、確かにそうだね。偶には身体を動かさないとね。…明日、久し振りに兄さん達に稽古を付けてもらおっかな!」グロードとアガレフにそう言われて頭を傾げ、少し考える様な間が気になるがすぐに笑顔になった。それを聞いたグロードとアガレフもベリエルに釣られて笑顔になった。「ああ。勿論だ。」「
ミーナ達3人が戦っていたその頃。東の大国で元八握剣(やつかのつるぎ)であったギンジはミーナの母であるリーナを連れながら、他にも生き残ってるであろうクレーアタウンの市民を探していた。生き残っていた市民は結構居た為、全員助けに来てくれたギンジの後ろをゾロゾロと歩いて着いて行く。そんな中で思わぬ人物に出会った。その人はギンジにとってあまり会いたく無い人物。「ギンジ!お前、こっちに来てたのか!?」の太く低い声の主である彼の名前はゴウシ。八握剣(やつかのつるぎ)の土刃(どじん)と呼ばれる男である。見た目年齢が30代後半は過ぎてるであろうゴウシは、ベリーショートの茶髪に整えられた茶髭。八
その頃。エミルとミーナはアスモディウス、操られた死者。そして悪魔となって現れたカレンを相手にしていた。すると遠くで砂の巨人兵が崩れていくのが見えるのが見えた。「え?あの悪魔祓いやられちゃったの?ちょっと待って、全然使えなかったじゃん!最悪!」一瞬でやられた悪魔祓いのアクィールスに対してキレるアスモディウス。「ー広がる水龍の陣。陣に入りし者を切り刻まんとする!」すると今度はエミルが水色の魔法陣を直径100mの広さに展開した。その陣に入っている敵と入ろうとしている敵に対して水の刃が飛び交った。水の刃は多数の死者の肉体を切り刻み、戦闘不能になる程のダメージを与える。しかし、この魔法
その頃、カイルとエミルは別々の場所で悪魔の大群を相手にしていた。カイルは目の前から襲ってくる悪魔を見た。「目の前にはおよそ100体か。いや、この周囲の魔力を探ればそれ以上…」「面倒だ。纏めて一気にぶった斬る!」カイルは自身の影を直径10kmの範囲まで広げた。この3日間、魔力の流れを読む訓練をしていた為か、カイルの魔力操作の練度はかなり向上している。本来10kmまで影を広げてしまうと剣を振るっても影の端に居る敵に与えられる威力はかなり落ちてしまう。しかし魔力の流れを読める様になった今、カイルは見なくても相手の位置は勿論、身体の部位が隅々まで分かるレベルまで察知出来る様になっていた
これは愛を知らずに育ってきた男の話。彼はこれまでの人生の中で物心ついた頃から愛という物に触れる事なく生きてきた。ネル・ナイトフォース。彼は5歳まで北の大国の中心都市部にある貴族の家で奴隷として過ごしてきた。物心付く前から奴隷として仕えていたが、そこでは人権というものが存在しなかった。「おい、ゴミ!さっさとこの食器片付けろよ!」その屋敷の主である中年男は仕える奴隷に向けて済んだ食器を片付ける様に命令した。「…はい。」命令を受けて出てきたのは当時4歳のネル・ナイトフォースだった。彼は肌着同然の薄い半袖の服にヨレヨレのズボンを履いていた見窄(みすぼ)らしい少年だった。身体を洗わせ







